日本のものづくりが今ほどグローバル化されていない時、JISに則った図面表記に日本語が入っていました。
今でもよく見るのが深ザグリの表現です。

でも最新のJISでは、こうなっています。

残念ながらこの表記で描かれた図面には、まだお目にかかったことが有りません。
日本語の表記が全て無くなった訳ではないようですが、個人的に大きく変わったのは幾何公差の記入だと思います。
これは、図面がローカルからグローバルに展開されるようになったことが一番大きな理由だと思います。
昔なら、ものを作るのは大体地元であることが多く、日本人の生真面目な?気質も有って細かなことまで指示されていなくても、製作側が読み取ってものを作り上げていました。
でも今では、ものがどこで作られるかわかりません。
日本国内なのか、海外なのか、企業規模が大きくなるほど役割も細分化されて、色々な思惑も働いて、こんなところで作られているのかというケースも珍しく有りません。
そうなると当然、色んなバックグラウンドを持った人たちがものを作ることになります。
それまで阿吽の呼吸で作っていたやりかたは通用しません。
誰が作っても同じ物ができるように図面を描く必要が出てきます。
図面はつくるものの情報を正確に転写(コピー)したものでないといけないからです。
例えば設計者が、イメージする円柱は数学的な円柱です。

直径に公差が有っても、その公差の範囲内で単一の直径を持った円柱をイメージすることが多いです。(AおよびB)
Φ20±0.1だったら、Φ20.1の円柱はイメージしても、場所によってΦ20.1だったりΦ19.9だったりする波打った円柱をイメージすることは少ないです。(C)
しかし実際にものを作る場合、真円ということは有りえません。
直径そのものの大きさもばらつくし、1つの円の中で測る場所によっても直径が同じとは限らないのです。
測定方法によっては円柱でないものを円柱だと判断する可能性もあります。(D)
このことに対して規制をするのが真円度(幾何公差)です。
こういった考えの下、形状・姿勢・位置・振れといった種類の幾何公差が定義されています。
ただ、この幾何公差をどこまで織り込むのかは、非常に厄介な問題です。
理想は、必要な情報を全て織り込むことで、そういった図面を一度見たことがありますが、とても煩雑です。
そこまで要る?っていう感じなんです。
特に重要な箇所に限って幾何公差を入れているというのが、現状のようです。
加工先が代わって、それまで不要だった幾何公差が必要になったとか、何か問題が発生して対策として幾何公差による作り込みが必要になったとかという時に追加されていくケースも有ると思います。
余談ですが、敢えて図面に必要な情報を入れないという特殊なケースも有るという話を聞いたことがあります。
図面の流出に対応するためです。
図面にすべての情報を盛り込んでいたら、図面が外部に漏れたら、ノウハウの大部分が図面流出とともに漏れていきます。
例えば寸法公差や幾何公差は、図面に描かれていなければ、仮に現物を測定してもその寸法が公差中心寸法なのか、特別採用された寸法なのか、組合せで作られた寸法なのかわかりません。
だから図面に公差を入れなかったり、注記を書かなかったりするんだそうです。
これはこれで、部品加工・組立・検査間で十分な意思疎通ができていないと、できない術ではありますが。
いずれにしても、図面のグローバル化は避けることは困難で、注記など日本語と英語が併記された図面も中小企業でも普通に見る時代です。
図面のルールは各国固有のものもの使われていますが、私の感覚だと90%以上は共通ルール(ISO)で描かれています。
お互い言葉が通じなくても、図面を見れば作りたいものが伝わっていくというのは、アートの世界と似ている様で興味深いものです。
インド人エンジニアとやり取りする時も、英語で何とか伝えようとするより、ポンチ絵1つの方がずっと早くて正確ってこともよくあります。